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札幌地方裁判所 昭和34年(ワ)325号 判決 1962年5月17日

原告 岡部豊吉

右訴訟代理人弁護士 板橋真一

被告 松浦彦四郎

右訴訟代理人弁護士 林信一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告が昭和一一年頃被告先代訴外松浦卯平から同人所有の札幌市白石町北郷六三二番地の一畑二町二反四畝一〇歩を期間五年の約で賃借したことは当事者間に争がなく、証人岡部ハナの証言≪中略≫によると、同期間経過後は右期間を更新して原告、および岡部平太らがこれを耕作してきたが、昭和二九年三月頃被告間において右賃貸借契約を合意解除した。そしてその頃被告と訴外岡部平太間に前記畑について賃貸借契約が締結され以後右平太が主となつてこれを耕作して来たことが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。

昭和三三年二月二六日右訴外岡部平太と被告との間において前記訴外人岡部平太が右小作地の賃借権を放棄して同地を被告に返還すると共に同番地の四宅地一四六坪五合六勺を被告に売り渡し被告より右訴外岡部平太に対し右小作地の離農金及び右宅地の売買代金として合計金二一〇〇、〇〇〇円を支払うべきことを約したことは当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない乙第五号証≪中略≫を綜合すると、昭和三三年三月六日に原告の親族らが会した席上で被告より前記離農地等の代金を訴外岡部平太が受取ると浪費する虞れがあるので右平太の義父に当る原告に右代金二一〇〇、〇〇〇円中、一〇〇〇、〇〇〇円を預けておく旨の約定が訴外岡部平太と原告代理人岡部惣五郎間になされたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

然して証人岡部キセの証言並びに原告本人尋問の結果を綜合すれば右一〇〇〇、〇〇〇円のうち二〇〇、〇〇〇円を原告が右平太から受取つたことが認められる。

然るに成立に争いのない甲第一号証≪中略≫を綜合すると、昭和三三年三月二九日に右平太、原告代理人岡部惣五郎および被告間において被告が直接原告に対し、被告が右平太に支払うことを約している前記二一〇〇、〇〇〇円のうちの八〇〇、〇〇〇円を原告において前記宅地を被告に引き渡すと同時に支払う旨の契約が締結されたことが認められる。

そこで右契約には停止条件がついており且つ右契約締結時に既にその条件が不成就に確定していたから右契約は無効であるとの被告の抗弁について判断する。

成立に争いのない乙第六号証≪中略≫を綜合すれば、右平太、被告および原告代理人岡部惣五郎との間に締結された前記認定の契約には前記売渡宅地が原告所有のものであることが認められた場合に効力を生ずる旨の停止条件が附加されていたことが認められ、かつ前記宅地は昭和二三年一二月二日自作農創設特別措置法第一六条の規定による売渡により訴外岡部平太が国から所有権を取得し昭和三三年五月二六日頃まで所有し続けたことを認定することができ、成立に争いのない甲第二号証の一、二も前掲各証拠と対比するとき、いまだ前記認定を覆すに足りない。

前認定の事実によれば右契約は該契約締結時において既にこれに附された右停止条件の不成就が確定していたといわざるをえないから民法第一三一条第二項により無効というべきものであつて、それ故被告の右抗弁は理由がある。従つて、その余の被告の抗弁を判断するまでもなく、原告の本訴請求はこの点においてすでに理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 海老塚和衛)

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